被ばくの牛たち

戸田さんは、三重県玉城町出身で神奈川県在住。

日本美術家連盟に所属し、50代以降は主に水を題材に描いてきたが、

東日本大震災による原発事故は、一瞬にしてその水、美しい自然、人々の生活を奪ってしまった。

震災後「津波や放射線に汚染された水の映像を描けなくなった」という。

“生ける水 Living Waters”

その湧水は喜び踊りながら流れ出で、
行くところどこにでも命が芽生え、
あらゆる生物が豊かに育つ。
私たちの心にも、その水は命の水となって湧き上がり、
人々の心を潤し世界中に平和が訪れる。

転機は東京都内の写真展で原発から14㌔の福島県浪江町にある「希望の牧場」を知ったこと。

放射能が降り注いだ浪江町(福島)にある牧場を訪ね、

汚染された330頭の牛を国の命令に逆らって、殺処分せず、

えさを与え飼い続ける吉沢正己さんと会ったのは2015年。

それ以来「見捨てられた牛」と題して、その過酷な環境の中で生きる牛たちを描き続けてきた。

「見捨てられた牛-フクシマより」

餌を食む牛たち/Feeding Cows

エサも人手も足りない過酷な状況の中で力強く生きようとする牛たち。
しかし、多くの若い牛たちが死んでゆきました。

木蓮と子牛/Magnolia and a Calf

あの事故の起きた日
あたり一面 放射能が降り注いだ

牧場の牛たちは いつものように
のんびりとエサを食べていた

あれから三年 子牛が生まれた
糞尿だらけの牛小屋で

子牛が楽しそうにはね回っていた

浪江町 希望の牧場にて

聖なる光 No.1/Holy Lights No.1

ミニーちゃんという小柄な牛
「長くは生きられないだろう」
牛飼いは言った

汚染された草を食べ続ける牛たち
被曝しながら生かされてきた牛たち

そっと私に近づいてくる 小柄な牛
脱毛した その鼻の周り

瞳が
まっすぐに私を見つめる

2017年
浪江町 希望の牧場にて

脱毛の激しい牛 スケッチ/Sketch

止まることを知らない国策
 原発の推進

もの言えぬ
 子牛たちの痛み

牛舎に保護されていた牛
顔をそむけたくなるほど、
   ひどく脱毛していた

月と赤い実

高い線量
人の住めなくなった里山に
咲き乱れる草花
陽は沈む
たわわに実った がまずみの
枝々の向こうに
静かに昇ってくる月

人の愚かさで

たくさんの罪のない動物たちの命が

奪われています。

失われた命の悲しみを

この絵を通して感じます。